青空文庫に「彼のオートバイ、彼女の島」その5
ついでに少し、小説自体の感想です。
これで「彼のオートバイ、彼女の島」については、終わりにします。
当時からの印象ですが。
片岡義男の小説は、まるで「紙に書かれた映画」のようだと思っています。
具体的には、以下のようなことです。
状況が分かりやすい、句読点の多い平易な文章。
都会や田舎町や地形など、詳細な情景描写。
服装やしぐさは詳細に描写し、言葉は短くセリフのように記述。
モノローグなど人物の心理描写は、ほとんどなし。
その代わり、オートバイの走行感覚は詳細に描写。
オートバイの走行シーンや風景の描写は、改めて読み直しても本当に素晴らしい。
文章を通して、その風景の中を走っているようです。
その一方で、いかにも気取ったセリフに、時代を感じます。
たとえば、こんな感じ。
とても低い声で、ミーヨが、囁いた。
「コオ。私は、なぜ、いま、ここにいるの」
なんの物音も、聞えない。ごくたまに、地上の枯れ葉の、かさっ、という音がする。
「ぼくも、おなじことを、ききたい」
うっひゃー、照れくさーい。
それから、暴力的なシーンも、こんなに多かったかと思います。
オートバイ同士で、木刀を持って決闘
幅寄せしてきた乗用車を、ボコボコにする
白バイに追われて逃げたり、パトカーをからかったり
走っている車のフェンダーミラーを、大きなスパナでたたき折るイタズラ
何度も単独で転倒
やはり、荒っぽい時代だったのですねぇ。
まぁ、こういった細かいことは、どうでも良いのです。
話は、先日のラストシーンに戻りますが。
二人が出会って、いろいろあって、まる1年。
みんなでミーヨの島にやってきて。
良く晴れた真夏の午後、縁側で記念撮影。
エンディングは、この情景描写だけで、もう充分。
嬉しい気持ちが伝わってきて、まさに「夏とは、心の状態」なのだと感じます。
失礼ながら、先のようなセリフは、どちらでも良いように思えてしまいます。
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