筒井康隆 小説「敵」読了
2025年1月17日(金)公開の映画で「敵」というのがありまして。
原作は、1998年に出版された筒井康隆の小説です。
おぉ。
これは懐かしい。
60代半ばの私には、星新一筒井康隆小松左京など、初期の日本SF作家は大好物です。
もちろん映画は見に行くとして。
その前に、原作小説を読み返さなくては。
当時のハードカバーが、ダンボール箱の奥底にあるはずなのですが、、、
利便性優先で、キンドルで買い直しをしました。
一度読み通して、最初からもう一度読み直して。
キンドルの検索機能で、登場人物の描写の履歴などチェックしたり。
作品概要は、アマゾン解説文を抜粋します。
渡辺儀助、75歳。
大学教授の職を辞して10年。愛妻にも先立たれ、余生を勘定しつつ、ひとり悠々自適の生活を営んでいる。
料理にこだわり、晩酌を楽しみ、ときには酒場にも足を運ぶ。
この作品は、1998年発売。
筒井康隆氏は1934年生まれ。当時64歳。
私がこの作品を読んだのが40代前半、そして今は出版当時の作者の年代になりました。
主人公に近い年齢になり、やはり読後感は変わってきます。
主人公は、75歳の元大学教授。
生活のディティールが、ごく短い章立てで、詳細に描かれます。
料理や家計や友人関係や仕事などなど。
手を抜かず、自分の好みを貫く生活。
主人公の年齢に近づいてしまった今、これらの描写は、昔よりずっと好ましく感じます。
日常生活の中に、夢や独り言や妄想の描写が入ります。
夕食時、妄想の相手と口論になり、つい大声を出す。
翌日、隣家の人から「昨晩はお客様でしたか」などと言われてしまったり。
若い頃は、単純に「ボケ老人・認知症」の描写だと思いましたが。
いやいや、それより「明晰夢」の方が気になります。
どなたも経験があるでしょう。
明け方に見る、リアルな夢。
現実だと思っていると、目が覚めるにつれ、なんだかおかしいことに気付いてくる。
な~んだ、夢だったのか。
というような。
その延長での「妄想癖」。
先のように、独り言が聞こえる程度で、誰に迷惑をかける訳でもなく。
結構じゃないですか。
四半世紀前の小説ですので、時代を感じる描写もあります。
主人公は喫煙者で、健康上の問題など無いと信じ込んでいます。
「がーほがほげほごほがほげこげこ」
私も当時はこんな感じでしたねぇ。
他人が見るほど本人はつらくない、というのも面白い視点です。
もう一つ。
インターネット以前の「パソコン通信」の描写。
当時の「朝日ネット」が登場します。
実名公開が原則で、文芸に強いプロバイダーでした。
他にもアスキーネットとかニフティサーブとか、それぞれ特徴があって。
おっと話がそれました。
作品のタイトル「敵」は、このパソコン通信のエピソードとして描かれます。
ネット上の会話の中で、こんな話が出てきます。
「敵です。敵が来るとか言って、皆が逃げ始めています。北の」
もちろん、現実のニュースや東北の街なかでも、何も起きていないと語られます。
一体何が起きているのか、それとも何も起きていないのか。
先のアマゾン解説文では、この「敵」の内容には触れずに、以下のように続きます。
年下の友人とは疎遠になりつつあり、好意を寄せる昔の教え子、鷹司靖子はなかなかやって来ない。
やがて脳髄に敵が宿る。恍惚の予感が彼を脅かす。
春になればまた皆に逢えるだろう……。哀切の傑作長編小説。
一方、映画の公式サイトのストーリー紹介の後半部分です。
いつしかひとり言が増えた儀助の徹底した丁寧な暮らしにヒビが入り、意識が白濁し始める。
やがて夢の中にも妻が頻繁に登場するようになり、日々の暮らしが夢なのか現実なのか分からなくなってくる。
「敵」とは何なのか。逃げるべきなのか。逃げることはできるのか。
自問しつつ、次第に儀助が誘われていく先にあったものは――。
うーん。なるほど。
小説の方では哀切と表現しています。
一方映画の方では。
意識が白濁とか、分からなくなってくるとか。
おどろおどろしい表現が並びます。
まぁ、そもそも小説とは別物ですし。
映画は多くの人の興味を引き付けて、集客しなくてはなりませんし。
こういった表現も仕方ないのでしょうが。
それでも、見ない方が良いような気もしてきます・・・
それよりも。
この小説を読んだら、翌1999年の筒井康隆作品「私のグランパ」も、続けて読み返したくなりました。
こちらも主人公は高齢の男性ですが、刑務所から出てきた祖父と女子高生の明るい話です。
私は見ていないのですが、菅原文太の主演で映画化もされています。
女子高生役は石原さとみ、女優としてのデビュー作。
こちらの映画の方が、見てみたくなりました。
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